舞台『GOKÛ』の紅孩児が如何に最高であったか

Go WEST♪ Go WEST♪ 西を目指して♪

佐々木喜英さん目当てに2016/02/19公演の『GOKU』を観に行ったらすっかり魅せられて終演後即DVD予約&チケット追加キメました。
佐々木さんの紅孩児は言わずもがなサイコー&サイコーisサイコーだったのですが、喜矢武豊さん演じる悟空のアクションのクオリティ、三蔵のチャーミングさ、歌や音楽の素晴らしさ、豪華セットによる世界観の没入感(チケット高いだけあるね!)、そしてあの結末……乱暴で天界の爪弾き者だった悟空の選択……。
本当に、おもしろかった。
明るくて元気になるアクションとストーリー、これぞまさにエンターテイメント。
自分の中で、エンターテイメント舞台の極みとして『超★超歌劇 幕末Rock』という評価基準があったのですが、あれに通ずるものを感じました。
それにしても紅孩児のビジュアル素晴らしすぎて、これほどの美人が現世に存在する事実を釈迦如来様に感謝したい。

以下、ネタバレ含むレビューです。
ストーリーのあらすじは概ね原案の西遊記どおりですが、あの結末とかは『ぼくの孫悟空』準拠なのかな?
紅孩児のキャラクター像などは舞台オリジナルみたいですけど、どうなんでしょう。

物語の主人公は、喜矢武豊さん演じる孫悟空
猿っぽいモチーフはほぼ無しの格好いいビジュアルをしています。あの衣装とても好み。腰回りのスカーフはしっぽをイメージしてるのかな~と思いました。
実は私、喜矢武豊さんのことはこの舞台を知るまでまったく知らず、ゴールデンボンバーのことも『女々しくて』しか分からない有様でした。
なので最初は、失礼ながら演技力とか未知数だな~と思っていたのですが…びっくりしました。
コミカルでユーモラスな演技も、シリアスシーンもばっちり。チャーミングな言動がかわいい。
何よりあのアクション、ダンス、殺陣のクオリティ!この人エアギターじゃなくてダンサーだったの!?(後で担当ポジションのことは調べた)
全編通して動き回っているのに、疲労を見せないアクションが本当に見ていて楽しかったです。

岩から生まれた孫悟空は、天界を荒らす暴れん坊。
持て余した釈迦如来は、悟空を500年の長きに渡って石の下敷きにして閉じこめます。
500年後に現れる、玄奘三蔵のお供をするように言いつけて…。

時が過ぎ…悟空の前に現れた旅の僧、玄奘三蔵(演:月船さららさん)。元宝塚の男役だったそうですが、ヒロインとしてチャーミングな声と演技で、これまたすごく可愛らしい。あとドジ。
三蔵に助け出された悟空は、彼女の身の上を知って弟子になり、共に天竺を目指します。
道中、これまた個性的な(ちょっと影は薄い)豚の猪八戒、河童の沙悟浄も仲間に加えて、四人は西へ向かって旅を続けるのでした。
一方、その旅を快く思わないのが、妖怪たちの親玉である牛魔王。
三蔵が天竺にたどり着いてその教えを広めてしまうと、人々の心から闇が消え、妖怪たちの居場所がなくなってしまうからです。
牛魔王は妖怪たちに「三蔵の肉を食らえば不老長寿が得られる」と伝え、その命を狙わせたのでした…。

というのが、概ね一幕の展開。
西遊記の基本設定どおり、有名なあらすじですね。
合間には三蔵が童歌を歌ったり、一幕終わりに三蔵一行が「Go WEST」と歌ったり、すこしミュージカルっぽさもあります。
また、三蔵を狙いに来た妖怪の金角・銀角とのダンス勝負など、見ていて楽しさ満載。
紅孩児は一幕ではまだ出番は少ないですが、手のひらが赤く光って顔を照らして妖しげな雰囲気を醸し出し、超格好良かったです。でも同行者は「シュールwww」と笑っていました。確かにシュールだった。

こうして波乱もありながら楽しい旅は続き、三蔵一行の絆は深まっていきますが、その裏には実は共通のトラウマがありました。

岩から生まれたために親が無く、一人孤独に生きてきた悟空。
親と生き別れて育ち、家族に憧れながら、再会した母には目の前で命を絶たれた三蔵。
兄弟が多く、いつ親の口減らしの対象にされるかも分からずに生きてきた八戒。
家族のために懸命に学び、身を立てて帰郷したら家族が全員天災で亡くなっていた悟浄。

四人は皆、家族に恵まれずにいました。
しかし旅を続ける彼らは、じきに「本当の家族ではない家族」となっていきます。

一方、三蔵一行と相対する牛魔王一家は、親子の揃った家族でありながらその関係は冷め切っていました。
女好きで、妻の目を盗んでは浮気ばかりの牛魔王。
牛魔王の浮気にいつも怒り、喧嘩ばかりの妻、羅刹女。
そんな仮面の夫婦を見て育ち、唯一自分が信じられるのは自分自身のみ、と中二病とナルシシズムを発揮しているティーンエイジャーな息子、紅孩児(演:佐々木喜英!)。
紅孩児かわいいよ紅孩児。
表向きはちゃんと牛魔王に三蔵一行の動向を報告したり(何故か歌って)(かわいい)(最高にかわいい)はしますが、夫婦喧嘩が始まるとあくびをして眺めたりと、ほかの登場人物と毛色が違います。

紅孩児は両親を「仮面の夫婦」と言いますが、羅刹女が悟空に騙されて大切な扇を奪われると、牛魔王は怒ってそれを取り返してくれたりと、根底にはちゃんと夫婦愛があるように見えます。
つまるところ紅孩児って単なる思春期なだけじゃん?めちゃくちゃかわいいな~も~!

そんなめちゃくちゃかわいい紅孩児、牛魔王の命令だからというよりも「自分には自分しかいないから」不老長寿のために三蔵を狙います。
その手口が、これまでのコミカルな空気をがらりと変えるほどえぐい。
紅孩児の手に乗せられた悟空は一般人を襲ってしまい、怒った三蔵に破門を言い渡されてしまいます。
悟空の言い訳にも聞く耳を持ちません。いや聞けよ家族だろ。八戒と悟浄と観客は戸惑います。
この三蔵の一方的な破門には悟空も「所詮は家族なんて本心から思ってなかったんだ!」と怒ります。そりゃそうだ。
三蔵は八戒と悟浄だけ連れて旅を再開します。また孤独に戻った悟空の前には、この好機を狙っていた紅孩児が襲来します。
妖怪の手下と共に旗を使ったパフォーマンスが最高に美しいです紅孩児。いつの間に舞台に現れていたのかも分からないほどの優雅さが素晴らしいです紅孩児。
しょんぼりしていた悟空は紅孩児にこてんぱんにやられます。ここの如意棒VS槍の殺陣がまた長物武器好きとしては最高に興奮します。槍っていいよね。

その頃、三蔵も三蔵で、悟空と離れた寂しさを感じているようでした。
その目の前に激しく踊りながら現れる観世音菩薩。悟空の危機を伝えます。
この観世音菩薩は台詞のないダンサーの方で、要所要所で美しい踊りで世界観を表してくれています。でもここの踊りは激しすぎてちょっと笑った。良い意味で。
(2016/03/04追記 観世音菩薩様、緊箍児くれるところで喋ってましたね。手前のフードの人が喋ってるんだと思ってましたが、よくよく見たら観世音菩薩役の方でした。最初は元○○なんて知らなかったからあの外見から出てきた声だとは思わなかったんだ……)

紅孩児に討たれる寸前の悟空のもとへ、助太刀に現れる三蔵たち。
ですが悟空を守ろうとするも、八戒と悟浄は紅孩児に太刀打ちできず、殺されてしまいます。
再び悟空に迫る紅孩児の槍、そこに三蔵が庇って入り、刺されてしまいます。
虫の息の三蔵は、悟空へ語りかけます。
「自分は本心からお前を破門することはできませんでした…」三蔵が悟空に渡した破門状は、実は白紙だったのです。
無事に和解した悟空と三蔵でしたが、その直後、三蔵は息絶えてしまいます。高笑いする紅孩児。ところでここでずっと槍を構えて待機している紅孩児、踵を上げて立っていて超スマートで超かっこよくて超最高だった。
再び立ち上がる悟空。急に全然しゃべりません。どう見てもプッツン切れてます。
ここの悟空のオーラが明らかにやばくて、観ている側すらもとても怖かった。怖いのがすごかった。この雰囲気を出せるのが、すごい。さすがの主演に圧倒されました。
迎え撃つ紅孩児ですが、今度は悟空にまったく敵いません。散々殴られるし蹴られるし吹き飛ばされます。
こんなによく吹き飛ぶ佐々木喜英が観られるのはGOKUだけ!
正直めちゃくちゃ興奮しましたね。まず、佐々木さんのやられ演技を見ること自体がレアですからね。これがまた上手い。すごく痛そうに重々しく殴られた、かのように倒れていく。ほんまこれ興奮しますね。

形勢逆転し、悟空にやられる紅孩児……という瞬間、今度は悟空の前に、牛魔王と羅刹女が現れて立ちはだかります。
「我が息子に手を出すな!」「私たちは良い親ではなかったかもしれないが、それでも紅孩児は大切な息子!」
口々に叫び、悟空に斬りかかる牛魔王と羅刹女。しかしやはり悟空には敵いません。倒れた夫婦は、今度は紅孩児に自分たちの不出来を謝ります。
悟空は牛魔王にとどめを刺そうとしますが、その足にすがりつく紅孩児。
「お願いだ悟空、やめてくれ!父と母には手を出さないでくれ!」

なんやこれ?
かつてここまでそそられる佐々木喜英があっただろうか?いや、ない。
命乞い、しかも自分自身のためではなく嫌っていた両親のために懇願する紅孩児が可愛すぎて泣いた。
この辺りでDVD予約することを決意した私。この紅孩児の可愛さは世に広めねばならない。

悟空の前に屈する紅孩児、そこに抱きつく牛魔王と羅刹女。
「頼む悟空、紅孩児の命を奪うなら我らも共に!」
抱き合い覚悟する牛魔王一家に、悟空は如意棒を振り上げますが…それを地面に叩きつけます。
「早く消えろ!俺の気が変わらないうちに!」俯く悟空を残し、慌てて立ち去る牛魔王一家。ちゃんと紅孩児が父に肩を貸してあげながら…。

なんやこれ?
私の弱点が家族愛と知ってのシナリオだったのだろうか?いや、それはない。
本当ね、親なんて!って思春期発揮していた紅孩児がね、親子愛に目覚めてね、親のために頭を下げて…というこの展開がね。
http://natalie.mu/music/gallery/show/news_id/176355/image_id/528109
この構図がね。
そして、これまで天界の暴れん坊として、何万人殺してきたかわからないと豪語していた悟空が、紅孩児たちの命を奪わないという選択をしたことがね。
最高にグッと来すぎて観劇予定追加しました。

残された悟空の前に、姿を表す釈迦如来
悟空の判断を評価し、彼らが天竺へ辿り着いたことを讃え、八戒、悟浄、そして三蔵を蘇らせてくれます。
えっ、いつの間に天竺に着いたの???
疑問は残りますが、大団円の前にはこまけぇこたぁいいんだよ!
三蔵一行が無事に天竺へ到着したことで、彼らの旅は終わります。ですが三蔵たちは、喜びよりも戸惑いが勝る様子。
どうしてかというと…旅が終わったら、自分たちは何をすればよいのか?仲間たちはバラバラになってしまうのか?
みんなと離れたくない、もっとずっと旅をしたい、と望む三蔵たち。
「たとえ私が止めても旅に出るのでしょう。良きかな、良きかな…」
ほら、釈迦如来様もこまけぇこたぁ良きかなって言ってる!

カーテンコール、再びGo WESTを歌う三蔵一行。これまで出会ってきた人々やアンサンブルも沢山出てきます。アンサンブルさんが本当に沢山いて、納得の見応えでした。
舞台の端ではニコニコしながら一緒に歌う牛魔王一家。紅孩児と羅刹女が手を合わせてハートを作っているところでノックアウトされる観客っていうか私。

シンプルなストーリーながら、アクションと演出で魅せ、ふたつの家族の在り方を見せ、誰ひとり悲しい結末にならずにハッピーエンドで締めた、これぞまさにエンターテイメント!
多少の展開の強引さや粗さはあるとしても(三蔵が天竺に着いたら妖怪の居場所が無くなるっていう話は大丈夫なの?別に消滅するわけではないのかな?)難しく考えずに楽しめて、感動できる。
真に悪い奴は誰もいなかった!素直な気持ちで喜べる、明るくてとても良い舞台でした。
これは本当にすばらしいぞ。なんてったって紅孩児が最高にかわいいぞ。
早くもう一度、悟空の足にすがりつく紅孩児が見たくてたまりません。
もう本当に紅孩児のビジュアル最高すぎでしょう?それを佐々木さんが演じているんでしょう?
素晴らしい配役を観世音菩薩様に感謝。