2.5次元舞台で推しを追うための双眼鏡に関する持論

※2016/05/19 「倍率」の項目に追記および修正。倍率別の「推しの見え方計算式」を掲載しました。
※2017/02/09 「そして私が選んだ双眼鏡は」の項目を追加。暫定完成版です。

この記事は、双眼鏡でぶっちゃけ失敗したなぁと感じた私が、その反省から三日三晩かけてネットで調べた結果と、実際に家電量販店に足を運んで店員さんから受けたレクチャーと、そして自分で展示されている数々の双眼鏡を覗いた体験談を元に記載しています。
個人の価値観と付け焼き刃の知識で書いているため、事実と異なっていたり誤りが含まれている可能性があります。その際はご指摘いただけますと幸いです。
また、最終的な判断を下すには、ご自身で店頭に赴き、現物を試用してみることを強くお勧めします。
目も視力も目幅も個人差があるため、双眼鏡との相性は人それぞれですから。
双眼鏡は家電量販店のカメラコーナーやホームセンターに置いてあります。特に、ビックカメラヨドバシカメラは双眼鏡の取り扱いが多めです。

記事の見出しはこのような感じ。

いざ舞台へ赴こうと言っても、常に推しのご尊顔をすぐ目の前にして観劇できるわけではありません。むしろできません。
チケット運がどれだけ良い人でも、片手で数えられるような列の座席に常に座れるということはないでしょう。最後列から数えた方が早い席になることも多々あると思います。

そういう時に欲しくなるのが、双眼鏡(『オペラグラス』とも言いますが同じものです)。
でも、観劇用にはどんな双眼鏡を用意すれば良いだろう、と軽く調べてみただけでは、製品スペック欄に様々な項目が有りすぎてよく分かりません。
倍率は何倍ならどう見えるの?
対物レンズ有効径って何?
ポロプリズムよりダハプリズムの方がかっこよくない?
参考例: Vixen アリーナ M8×25Vixen コールマン H8×25

通販サイトのレビューを見ても、それっぽい双眼鏡は大体どれもそこそこ好評に書かれています。
しかも、同価格帯の選択肢が意外とたくさん出てきてしまう。双眼鏡メーカーってこんなに沢山あったんだ、と驚きました。
個人的にはどこもあまり聞き覚えがありませんでしたが…コーワってキューピーコーワと関係あるの?なんて冗談で考えてみたら、まさかの同じコーワだったりするから余計に混乱する始末。

なので、軽くではなく三日三晩かけてそれなりに調べてみたところ、とりあえず双眼鏡素人にとって重視した方がよさそうな項目や要素について、なんとなく分かった気がしてきました。
もちろん「なんとなく」だし、ちゃんと学んだわけではないので、誤りもあるかもしれません。
ただ、少なくともここは押さえておくべきだ、と思ったポイントを、なるべく単純に、かつ2.5次元舞台ファン向けの目線で書き出してみました。


倍率×口径(対物レンズ有効径),実視界°

だいたいの双眼鏡の名前には、「5×20」とか、「8×25」とか、「10×32」とか、数字の掛け算が入っています。
これは双眼鏡の倍率×口径を指しています。
倍率は言うまでもなく、対象がどれだけ大きく見えるかです。
口径とは、対物レンズ(外側のレンズ)の大きさのことです。
余談ですが、内側のレンズの方は接眼レンズと言います。
また、双眼鏡本体には、更に「5×20,7°」と後ろに度数も書いてあります。
この度数は実視界のことで、双眼鏡を覗いた時に見える範囲の広さのことです。

双眼鏡を選ぶ時は、倍率口径実視界の三点が最初に重視するべきポイントでしょう。


倍率は6倍、8倍、10倍が主な候補

自分が双眼鏡を使って、舞台をどのように見たいのか。
双眼鏡を買おうと考えるからには、何かしらの理由や目的があるはずです。
まずは、その目的を果たせる倍率を決めることで、双眼鏡選びが始まると言っても過言ではないでしょう。

双眼鏡の「倍率」は、大きければ大きいほど対象が近く(大きく)見えるようになります。
しかしそこで気をつけなければならないのは、倍率は大きければ大きいほど良いわけではない、ということです。

  • 倍率が大きすぎると困る理由その1、対象が近くに見えすぎる。
    双眼鏡を使って、推しの顔を見たい。ダンスや殺陣を見たい。他キャストとの絡みを見たい。
    双眼鏡の主な使用場所はブルーシアター六本木やアイア2.5シアターである。帝国劇場である。さいたまスーパーアリーナである。
    それぞれ利用者によって目的は異なるでしょうが、本記事は2.5次元舞台の観客、特に追いたい推し役者がいる場合を主な対象としています。
    なので、広くても総座席数1000席前後・最大25列程度の劇場で、演者の顔を判別するための使用を想定します。
    この規模の劇場で、あまりにも倍率の大きい双眼鏡を使うと、推しの毛穴を見ることも出来るかもしれませんが、逆に毛穴しか見えなくなってしまうでしょう。

  • 倍率が大きすぎると困る理由その2、手ブレで視界が揺れる。
    人間の手は空中で静止することが出来ないものらしく、三脚を使用したり、身体を壁などに密着させて支えない限り、どうしても双眼鏡を持つ手が微震します。
    ですが、観劇中の客席で、自分の両手を物理的に固定させることは出来ないでしょう。前の座席の背もたれに肘を載せて…なんてことは論外なので、せいぜい手すりのある立見席(銀河劇場など)にいる時くらいです。
    この手ブレによる影響は、倍率が大きいほどに強くなります。高倍率で、すぐ眼前に推しが見えても、それが激しく振動しているのです。
    めっちゃ酔います。あと純粋に見にくいです。

また双眼鏡の前提として、同じ条件なら倍率が高いほど視界が狭く暗く、倍率が低いほど視界が広く明るくなります。
これらのことから、観劇用に向いている倍率の候補は、おおむね以下の3パターンになります。

  • 6倍(便宜上5~7倍もここに含まれます)
  • 8倍
  • 10倍

倍率がいくつだとどこからどう見えるのかと言いますと、以下のような意味があります。

 距離÷倍率=その距離から対象を見た時と同然の見え方

例えば、100m離れた対象を上記3種類の双眼鏡から見たとした場合。
 100m÷6倍=16.7m → 対象に16.7mまで近づいた時と同じ見え方
 100m÷8倍=12.5m → 対象に12.5mまで近づいた時と同じ見え方
 100m÷10倍=10m → 対象に10mまで近づいた時と同じ見え方
このようになります。
ちなみに、人間の1歩あたりの歩幅は、およそ身長マイナス1m(100cm)として計算します。
また、人間の表情を判別できる距離は、20m(2000cm)が限界と言われています。実際のところスッキリと見られるのは、15m以内でしょう。
最大25列程度の劇場では、真ん中程度の列から壇上の役者まで20m程度になると思います。(計算式は本記事の終わりの方に載っています)

つまり、ブルーシアター六本木やアイア2.5シアターの真ん中で、身長155cmほどの方が双眼鏡を使った場合、およそ以下のような見え方になるとイメージすると参考になるでしょう。
 20m÷6倍=3.3m=330cm → 対象から約6歩離れた時の見え方
 20m÷8倍=2.5m=250cm → 対象から約4歩半離れた時の見え方
 20m÷10倍=2m=200cm → 対象から約4歩もしないくらい離れた時の見え方

6倍と10倍では、当然ながらそれなりの違いがあります。が、大規模ドームやスタジアムで使うのでもない限り、その差は意外と小さいのです。

ここで、自分の体験談です。
シアター1010の1階後方席で、8倍の双眼鏡で、身長175cmの役者さんがおおむねバストアップで視界に収まりました
口径については後ほど触れるとして、シアター1010は座席と舞台の距離がだいぶ近い劇場です。身長175cmというのも、近い男性俳優さんは多いでしょう。
この見え方は、ブルーシアター六本木やアイア2.5シアターの同等列でも参考になると思います。

このことから、総座席数1000席以下の劇場で、いわゆる「一般席」と呼ばれる中~後方席からは、だいたい下記のように見えるでしょう。

  • 6倍 … 複数人が一度に視界に収まり、ある程度広く舞台が見える。手ブレの影響は少ない。
  • 8倍 … 人間一人を視界に収めて、ダンスや殺陣などの大きな動きもある程度追える。手ブレは平気な人は平気、酔う人は気になる。
  • 10倍 … 一人の人間の上半身から顔をアップで見られる。手ブレの影響は結構大きい。

いわゆる「プレミアム席」と呼ばれる前方席に座れた時は、それぞれ一段上の倍率の見え方が参考になるでしょう。

以上より、私個人の考えとしては、2.5次元舞台で推しを定点観測したいなら8倍以下という結論に至りました。
壇上で最も見たいものが推しのご尊顔であると言っても、それさえ見えれば良いというわけではありません。他にもダンスや殺陣、手先と足先の動きも同時に観賞する必要があります。ですから、あまりにも近すぎる倍率は不向きです。
一般席での観劇が多い方、2階席や3階席のある劇場に通う機会が多い方は、8倍くらいはあって良いでしょう。
一般席であっても最大25列程度の劇場(ブルーシアター六本木やアイア2.5シアター等)メインの方、プレミアム席での観劇も多い方は、6倍以下でも充分によく見えるでしょう。ちなみに5倍と6倍の見え方の差は歩幅1歩分も無いので、その2種類で悩んでいる時は他の優先したいスペックを重視しても良いくらいです。
また、どんな倍率であれ、初見の舞台でずっと双眼鏡で推しだけを覗いていると、やはりストーリーについていきにくくなってしまいます。そんな時にも、ある程度広く舞台を眺めながらも距離感を近づけてくれる低倍率の双眼鏡は活躍するかもしれません。

一番ベストなのは、目的に合わせて5~6倍と8倍を使い分けできることですが、さすがにまだ自分では2台持ちはしていません。いつかしてしまうかもしれません。
ちなみに、倍率を任意で変更できる双眼鏡や、自動でズームする機能が付いている双眼鏡も世の中にはありますが、これらは倍率固定双眼鏡に比べて「罠」と言われています。


口径は対物レンズの大きさ

倍率の次は、「口径(対物レンズ有効径)」の大きさについてです。
こちらは大きければ大きいほど取り込める光の量が増えるため、視界が鮮明に、解像度が高く見えるようになります。
見え方においては単純に、口径は「大きければ大きいほど良い」と思って良いでしょう。
口径が大きいことによるデメリットは、見え方ではないところに出てきます。
対物レンズが大きくなることで、双眼鏡が物理的に重くなる。
対物レンズのコストが上がることで、双眼鏡の値段も高くなる。
分かりやすいですね。

倍率が「対象をより近くに見るための値」なら、口径は「対象をより綺麗に見るための値」みたいなものです。
いくら推しを理想的なサイズで見ることができても、曇りガラス越しのような画質で見てもスッキリできないでしょう。せめてVHSよりDVD画質は求めたいです。
それに、舞台上のキャスト全員に常に明るさ最大のスポットライトが当たっているわけではありません。シーンの都合で照明が薄暗い時もあるでしょう。手前で他のキャストがライトを浴びている後ろで、推しが可愛い動きや面白いアドリブをしているかもしれません。しかもそういうのに限って円盤には映らないんですよね。つらい。
それらを見逃さないためにも、口径は出来る限り追求したいところです。

口径は倍率により多少左右されますが、8倍でしたら最低25、出来れば30はあると、気持ちよく見えやすいでしょう。
このくらいの口径なら、本体の重さも500g以下のものが増えます。300gくらいだと、かなり軽くて持ち運びしやすく感じられます。


実視界は見える角度

最後に、実視界について。
これは双眼鏡の名称に含まれていない数値です。しかも製品スペックを見ると、「実視界」の他に「見掛け視界」とか「1000m先視界」とか、視界に関する項目が色々載っていて難しいです。
各項目について詳しく知りたい場合は、それぞれの項目名でググればすぐ答えが見つかりますので、この記事ではとにかく単純に言います。
実視界も、広いに越したことはありません
双眼鏡を覗いた時に、推しの周辺も出来る限り見えた方が、ダンスや殺陣の動きも追いやすく見落としが減ります。
ただ単純に実視界の数値が大きいだけでは、その他もろもろの要因によって、視界の外側に行けば行くほど、物が歪んで見えるようになることがあります。ですが、2.5次元舞台を観劇する用途で考えれば、おおむね実視界が広くて不便することは少ないでしょう。
目安として、8倍の双眼鏡でしたら実視界は最低6°は欲しいです。7°以上あると、それ以下の双眼鏡と見比べた時に「おっ広い!」と感じられます。


明るさは偉大、覗きやすさは大事

倍率と口径と実視界は、双眼鏡の基本のキ。この三点にこだわれば、自ずとある程度まで双眼鏡の候補は絞れるでしょう。
その先の判断材料は価格だったりネットのレビューだったりしますが、後もう少しだけ性能にこだわるとしたら、ぜひ明るさアイレリーフに気をつけてみていただきたいです。

「明るさ」はこれまた単純明快で、明るさの数値が大きいほど視界が明るくなります
明るさは大事です。特に観劇中は、「照明の落とされた客席」から「明るい舞台」を見ることになるため、暗闇に目が慣れる天体観測時よりも明るさの影響を感じます。
お手頃価格の双眼鏡によくある明るさは6~10ですが、観劇用は出来れば9以上は欲しいです。12くらいあれば、明るさを実感できます。
オススメは、選択肢が限られてきますが、明るさ16以上の双眼鏡です。ここまであると、他の諸々の要因も付随して、「生でブルーレイ画質」を感じられます。
明るさ16に比べたら、明るさ10はDVDでしょうか。明るさ6はVHSです。個人的に、観劇用に6はオススメできません。なお私は明るさ狂信者です。

「アイレリーフ」は、目からレンズまでの距離を示します。つまり、接眼レンズの手前に付いている目当ての筒部分の長さでもあります。
このアイレリーフが短いと、ピントの合わせやすさや視界の広さに影響してきます。加えて大事なのが、アイレリーフが短いと眼鏡を着用したまま使いにくいことです。
アイレリーフが長い場合は、だいたい伸縮させられたりめくって短く調整できたりしますが、最初からアイレリーフが短い製品は長くはできません。目当てから顔を離して覗くことになりますが、それは使いにくいです。
アイレリーフは、最低13は欲しいでしょう。よくある値は15です、これくらいあれば困りません。18もあるとかなり覗きやすいと聞きます。

双眼鏡の覗きやすさは、スペックの数値だけでは測れない面もあります。
瞳や鼻や顔の個人差にも影響されます。
私は、覗き穴のサイズによってまつ毛が視界を遮って見にくくなる、という現象も体験しました。これは実際に複数の双眼鏡を覗いて比べるまで理由が分からず困りました。
覗いてみた時にすぐ「覗きやすい」、「覗いた時の視界が気持ちいい」、と感じた製品は自分と相性が良いのだと思います。有力候補に加えても良いくらいです。


ポロプリズムとダハプリズム

倍率は8倍くらい、口径は30くらい、実視界は6°くらい…。
だいたいスペックの目標値を定めて数ある双眼鏡を見比べていくと、その外見が大きく分けて二種類あることに気づくかと思います。
楕円形に近い丸みを帯びたフォルムのタイプと、レンズとレンズが屋根状の板で繋げられているタイプ
前者の丸めの方はポロプリズム式、後者の細めの方はダハプリズム式と言います。
それぞれ、双眼鏡内部の仕組みが違います。が、ポロとダハの詳しい説明は専用のホームページに任せます。
簡単に言うと、こういうことです。

  • ポロプリズム式は加工が楽なので、安価で軽くて見えやすい物が手に入るが、かさばる。
  • ダハプリズム式は加工が難しいので、質を求めると高価だが、小型で携帯性に勝る。

ダハプリズム式の加工には、およそポロプリズム式の1.5倍のコストがかかると言われています。そしてその分は、もちろん本体価格に跳ねてきます。
なら、購入候補はポロプリズム式で検討した方がいいのか?と言うと、ぶっちゃけそう考えて良いでしょう。何か譲れないこだわりが無い限りは。
求めるスペックに合致するポロプリズム式とダハプリズム式の両方がある時は、ポロプリズム式の方が安く買えるでしょう。
そこでダハプリズム式を買おうとしたら、その値段でワンランク上のポロプリズム式が買えてしまいます。

そんなポロプリズム式で、オススメしたい双眼鏡はこのあたり。
とはいえ、私も店頭で試用しただけであり実際に劇場で使ってはいないので、参考程度と考えてください。

  • 8倍

覗きやすさにスペックが付いてきた、個人的な最有力候補でした。2015年末に発売したばかりなので、性能が洗練されているのを感じます。
(双眼鏡は10年近く前に発売して未だ店頭で現役な商品も多々あるのです)

  • 5倍

驚くほど視界が広く明るい、低倍率双眼鏡のイチオシです。下記のヒノデ6倍とよく比較されている。めっちゃ欲しい。

  • 6倍

こちらは家電量販店等での展示が無いので気軽に試せないのがネックですが、製造元ホームページでの通販を使えば「30日間、いかなる理由でも返品を受け付けます。」とのことなので、お試し感覚で注文してみるのもアリ。

おおむね、実売価格7000~9000円くらいで、充分に観劇できるものが求められるでしょう。
ちなみにどういう理由かはよく知りませんが、双眼鏡はメーカー提示額に対して実売価格が大きく割り引かれていることが多いです。メーカー希望小売額だけを見て「高いなぁ」と諦めてしまう前に、通販サイトや店舗で実売価格を確認することをお勧めします。

このように価格とスペックのバランスが良さそうに見えるポロプリズム式双眼鏡ですが、欠点が二つ。
本体サイズが大きいのでかさばる。
一定ランクより上の商品が無い。
ポロプリズムで満足できればそれに越したことはないのですが、それより上を求めてしまった時などは、選択肢が実質ダハプリズム式に限られてきてしまいます。


双眼鏡の値段は高ければ高いほど良い、けれど

ここに至るまでの文章で、本記事の主題である「2.5次元舞台で推しを追うための双眼鏡の選び方」は書ききりました。
この先は「選び方に関する持論」、つまり個人的意見を好きなように並べています。

双眼鏡の性能はわりと単純で、「如何に良いレンズを使っているか否か」に左右されるそうです。そのレンズの質は、当然双眼鏡の価格も上げます。
つまり多少の例外やメーカー別の差異があるけれど、基本的に良い双眼鏡=高い双眼鏡、と言えます。
しかし双眼鏡の価格は、上を見ればキリがありません。めっちゃ高い双眼鏡は何十万円もしますし、逆に安い双眼鏡は500円もしないで買えます。
余談ですが、安くて薄くてパカっと開く折りたたみ式の双眼鏡は、ポロプリズム式ともダハプリズム式とも違う、ガリレオという仕組みで、安価でシンプルな造りをしている代わりに倍率がせいぜい3倍くらいしかありません。
なので、あまりに安価な双眼鏡は「2.5次元舞台で推しを追うため」には向きません。同時に、極端に高価な双眼鏡も観劇には不向きです。
高価な双眼鏡はレンズが高性能すぎて、舞台上の役者ではなく頭上の星空を見るのに適しています。本体も大きく重くなり、900gから1kgの大台に乗ってきます。
倍率の項目でも記載した通り、双眼鏡のスペックはすべての値が高ければ高いほど良いわけではありません。もちろん悪いわけでもなく、適材適所という話なのです。

観劇用双眼鏡の最低ラインは、ガリレオ式ではなく安くてもポロプリズム式かダハプリズム式が良いでしょう。同価格で比較するなら、ポロプリズム式に軍配が上がります。
安さを追求すれば、実売価格1000円程度でも何かしらは買えるでしょう。ただ、ひとまず「無いよりマシ」を目指すなら、3000円は出したいところ。
円盤に入りきらないような舞台の隅々も目に入れるだけ入れたい、となれば5000円ほど出すとだいぶ違ってくるでしょう。お試しにまず1台、という時にも手を出しやすいところです。
ただし個人的には、本記事を書くきっかけになった5000円台の8×21双眼鏡を使って、「失敗した」と思った経験があります。ネットのレビューだけを見て、本体の見た目のデザインが気に入り購入したものでした。
結果、無いよりは有った方が良かったけれど、これに5000円を出すならもうあと2000円出しておくべきだった、と後悔しました。
「お試しに1台買っても、すぐにもっと上のランクが欲しくなってしまうタイプ」の方には、この選択肢は正直お勧めできません。

「初めての双眼鏡を買おうとしているが、最初からそれなりの物が欲しい」
「とりあえずの1台を持っているが、物足りなさを感じている」
このような方は、上述した7000~9000円か、少し奮発して1万円くらいの物を検討した方が良いと思います。
理由は二点。

  • 双眼鏡は、1万円近く払えば払っただけの性能が返ってくる。
    双眼鏡通の間では、「1万円以下は双眼鏡ではない」「1万円がスタートライン」なんて言葉を多々見かけます。
    ただ、我々が見たいものは何万光年先の銀河系でも、一瞬で視界外に飛んでいってしまう野鳥でもなく、数十メートル先の舞台上の人間です。多少ハードルを下げて考えるのが適切だと思います。
    が、それでもやはり四桁後半くらいは出した方が、それより安価な物と比べるとグッと見え方が違います。

  • 2.5次元舞台観客の感覚的に、双眼鏡に1万円を出すのは高すぎるほどではない。
    …と思う、という個人の価値観による意見なので、この項は「私がこの価格帯の双眼鏡をオススメする理由」と受け取ってください。
    2.5次元舞台のチケットは、だいたいプレミアム席1枚9000円、一般席1枚7000円前後のことが多いです。
    だからプレミアム席の観劇を一回諦めて、代わりに双眼鏡を買おう!…などと言うつもりはありません。もちろん、この考え方で納得できる方は、それが一番理想的です。
    私は、何かのために観劇回数を減らすという考えはできません。回数を減らすくらいなら仕事を頑張ります。それくらい、「生で劇場で観られる機会」は貴重で唯一無二だと思っています。
    ただ、いつも買っているチケット代がこうなので、その観劇をより快適にするための道具にプレミアム席1枚相当の金額を払うことに抵抗感を持ちにくいのではないか、という気持ちはあります。
    また例えば、プレミアム席で観たかったけど落選して一般席になった、という時に、「双眼鏡が有ればガッカリ感がだいぶ薄れる」と思うとその価値が感じられてくるのではないでしょうか。
    なんと言っても、一般席からでもプレミアム席相当の迫力で推しを観られるのですから。プレミアム席と一般席のどちらを取るか迷った場合、双眼鏡があるから一般席で良い、と判断することもできます。
    (もちろん、絶対に間近で観たいほどの公演なら、取れる限りプレミアム一択ですが)
    そういう時に、9000円払うつもりだったのが7000円で済んだ=差額の2000円が浮いた、という考え方が出来ます。
    この浮いた2000円が5回分あれば、1万円の双眼鏡1台になります。
    2.5次元舞台ライトユーザーですと、5回2000円を浮かすのには時間がかかるかもしれませんが、双眼鏡を使ってでも追いたい推しがいるような方なら、何年とかからずに元を取ることは充分可能ではないでしょうか。
    それに双眼鏡は適切に手入れして保管すれば、かなり長く使えるもののようです。
    (手入れについては勉強中なので、解説は避けます。ただとにかく湿気が大敵で、購入時の付属ケースに入れっぱなしにするのは厳禁とのこと)
    あと言いやすいので1万1万言いましたが、7000円でも良い双眼鏡はありますし、それで満足できれば5回が4回以下になります。

ちなみに、このあたりの価値観が舞台ファン・役者ファン独特のものなのと、それを踏まえた双眼鏡選びをしたくても参考情報を探すのがなかなか難しかったことが、本記事を書くに思い至った次第でもあります。

以上より、私個人の見解として、2.5次元舞台の推し観劇用双眼鏡は、7000円から高くても1万円くらいが、性能的にも価格的にも妥当だしお勧めしやすいと思っています。


観劇中の自分と推しまでの距離ってどれくらい?

双眼鏡の試用をするためにあちこちの家電量販店を回ってみていたところ、ある店舗では、「双眼鏡コーナーからここまでで約20mです!」という確認用のボードを展示してくれていることがありました。
これはとても便利でしたが、ひとつ引っかかったのは、「普段劇場で自分と推しがどれだけの距離にあるのか分からなければ、20m先のボードの見え方を確認しても参考にならないのでは?」ということでした。

世の中に劇場は沢山ありますが、2.5次元舞台のために私がよく行くのはブルーシアター六本木です。アイア2.5シアターも2.5次元舞台御用達で、この2ヶ所の劇場の構造(狭さ)は似たり寄ったりです。
なので、基本的には「行く機会が多く」「舞台および客席の図面が公開されている」ブルーシアター六本木を参考にして、算出します。
参考資料: Zeppブルーシアター六本木|図面・設備・注意事項

ブルーシアター客席の縦幅は、24640mm=2464cm。
最後列は24列目。ちなみにこれは上手ブロックにしかなく、センターと下手ブロックでは21~23列までになります。
舞台端から1列目までの距離は、90.5cm。
11列目と12列目の間にある通路幅は、図面には明記されていませんが、軽く測ったところ約150cm。
24列目から後方壁までの距離も明記ありませんが、約120cmとします。

そして肝心の1列あたりの奥行は…90cmも無いくらいに見えます。
計算もしてみましょう。

 (2464-90.5-150-120)/24= 87.65cm

1列あたりの奥行は、約88cmのようです。
しかもこれ背もたれの厚み含む。そりゃ狭いわけです。
ネットで座席の奥行を調べていたら見つけた新国立劇場の小劇場は91cm、中劇場の方に至っては95cmもあります。
座席の足元が狭い(ブルーシアター)、背もたれが薄い(アイア)といった劇場では、1列あたり90cm以下。ゆったりとして余裕のある劇場だったら、1列あたり95cmと考えると参考になりそうです。
ちなみに、一般的なビルの1階あたりの高さは300cmだそうです。2階席、3階席のある劇場では、1階あたり300cmずつプラスすると計算しやすくイメージも掴みやすいでしょう。

また、壇上のキャストも常に舞台前方に立っているわけではありません。舞台にも奥行があります。
ブルーシアター六本木の舞台奥行は、1130cm。
なお新国立劇場中劇場は1458cm、シアター1010と梅田芸術劇場シアター・ドラマシティも約1500mです。ブルーシアター建て替えよう。
とにかく、セットの厚みや立ち位置の都合などを考えて、舞台端から壇上中心までは平均700cmを見込みます。

以上より、自分の席から推しまでの距離は、下記計算式で参考値が求められると思います。(単位:cm)

  • プレミアム席なら、列×88+90.5+700
  • 一般席なら、列×88+90.5+150+700

5列目に座れたら、推しまで約1230cm=12.3m。
12列目だと間に通路が入るので、推しまで約1966cm=19.6m。
24列目は約3052cm=30.5mになります。かつ、サイドブロックなので実際はもう少し遠いでしょう。

つまり、客席の真ん中あたりなら、自分から推しまで約20m
後方席の時は、自分から推しまで約30mということになります。
双眼鏡を試用する時や、ネットで見え方のレビューを読む時は、この距離感を意識するときっと参考になるかと思います。


そして私が選んだ双眼鏡は

この記事を書いてから半年以上が経ち、その間に行った舞台も相当数になりました。
京都劇場も行ったし、六本木EXシアターも行ったし、東京ドームシティホールも行ったし、刈谷市総合文化センター アイリスも行った。広かった。天井も高かった。

そんな東奔西走する観劇のお供として活躍し、もう手放せないと個人的に結論づけた(※2017年2月時点)双眼鏡は、こちらです。

Kenko ultraVIEW M 8x25FMC!

と、

ヒノデ 5x20-A4!

製造元ホームページでの通販はこちら

結論なのに一台に絞れませんでした!
むしろ、一台に絞れないということが私の結論でした。

あえて絞るならultraVIEWかな、とは思っています。
倍率が8倍なので、2.5次元舞台規模の劇場では「ちょっと近すぎる」と感じることもままあると思いますが、それを補って余りあるほど色彩が美しく見えます。
裸眼で見るより圧倒的に明るく、陰影がくっきりし、『リアルBlu-ray画質』を味わえます。特に黒執事リコリス2015とか、超歌劇黒船来航のBlu-rayのような、ヌルッとした鮮やかさで、推しの定点観測が出来ます。
この感覚は、一度味わうともう戻れないです。それくらい中毒性のある光景が待っています。
また、ヒノデに若干劣るものの本体が軽くて持ちやすいことと、家電量販店でもAmazonでも気軽に確認・購入できることも大きいです。
複数回入る前提の舞台で、推しウォッチングに徹するならば、この一台を選んで間違いないと思います。
デメリットは後述ですが、眼鏡使用者には使いやすいとは言い難い(ultraVIEWに限った話ではありません)ことと、8倍なので汎用性に劣る(把握した上で選ぶのも充分アリ)くらいです。

で、こんなにべた褒めしておきながら、自分のメイン機にしているのは、実は5x20-A4の方です。
ポロプリズム式の項目でオススメに挙げたのは6倍の方でしたが、最終的に5倍にした理由のひとつは、製造元ホームページに書かれている売り文句に惚れたからです。
もうひとつが、目当てがスライドアップ式であったりアイレリーフが寛容であったりと、眼鏡をしたままでも非常に覗きやすいことです。
多くの双眼鏡では、覗き穴の部分が小さくて縁は厚く、眼鏡を付けたままでは視界が欠けるし、眼鏡のレンズは汚れるし、でも接着させて構えないとブレる。しかし観劇中はレンズが汚れても拭けない!(※拭いている暇があったら推しを見たいの意)
しかし5x20-A4は、他にないほど覗き穴が大きくて、眼鏡越しでも視界が収まる感覚で、驚くほどにストレスフリーです。
眼鏡が不要な裸眼の人とコンタクトレンズの人にはピンとこないであろう話ですが、近視と乱視の問題で観劇時は眼鏡が一番という私のような人間には、眼鏡で覗いた時の快適さがもう手放せません。眼鏡経由なら覗き穴周辺に目元の化粧もつかないし。
また、大絶賛したultraVIEWと比べるとごく若干劣りますが、こちらも充分綺麗でBlu-ray並の明るさの世界が見られます。双眼鏡って不思議ですよね、良いもの選べば裸眼よりも明るくなるんだから。
そして、低倍率による汎用性の高さは、ここに至るまで散々記述してきました通りです。

この二台のどちらを選ぶか、はたまた第三の選択肢を考えるか……それはもはや、個人の好みの域ですね。


ご自身の利用環境や用途、そして好みに合わせて、ぜひベストな観劇の相棒を探してみてください!